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コラム

便秘を放置してませんか?危険な便秘

内科

便秘をそのままにしてはいけない理由

 

 

1) 便秘とは?

便秘は、排便回数が少ない(週に3回未満)、排便4回のうち1回以上が硬い便や残糞感、努責(排便時にいきむ)、用手的介助(敵便など)の必要性を認める状態のことをいいます。この症状が、6ヵ月以上前から、3ヵ月間続く場合は慢性便秘症になります。

 

2) 便秘の原因

便秘は、大きく機能性便秘と器質性便秘に分けられ、それぞれ原因が異なります。

以下を含むいくつかの要因が便秘に寄与する可能性があります。

a)機能性便秘(排便回数減少型、排便困難型)

- 低繊維食

- 不十分な水分摂取

- 身体活動の不足

- 薬物(向精神病薬、オピオイド、抗コリン薬、制酸剤など)

- ホルモン障害(甲状腺機能低下症など)

- 神経学的状態(パーキンソン病、多発性硬化症など)

b)器質性便秘

大腸がん、腸閉塞などにより、物理的に便の通過が障害されることで起こります。この場合、自己判断で下剤を服用すると、腸管穿孔を起こす危険性があります。

 

3) 便秘を放置していいのか?

便秘を無視すると、深刻な健康問題につながる可能性があります。慢性便秘は、大腸ポリープや大腸癌などの器質的疾患の兆候である可能性があります。そのため、検査をせずに便秘をそのままにしたり、漫然と市販薬の下剤で経過をみたりするのではなく、便潜血検査をすることが大切です。また、排便時のいきみは、痔、肛門裂傷、直腸脱を引き起こす可能性があるだけでなく、生命予後も悪化させると言われています。理由としては、いきむことで心血管疾患を引き起こすからと考えられています。

 

4) 便秘の予防と治療

便秘の予防や改善に主に以下のことを行います。

  1. a) 食事の変更

食物繊維の摂取量を増やすことは、便秘を予防し、緩和するために重要です。果物、野菜、全粒穀物、豆類から118g以上(男性は21g以上)の食物繊維を摂取するように心掛けてください。適切な水分補給も、柔らかく通過しやすい便を維持するために不可欠です。そのため、11.52リットルを目安に、こまめに摂取しましょう。

 

  1. b) ライフスタイルの変更

睡眠や運動などの生活習慣を改善することは、規則正しい排便のための基本になります。高齢者の中には,便意を感じないのでトイレに行かない患者がいます。便意を感じなくても1 2 回,朝夕食の 30 分程度後にトイレルーチンを確立することで、定期的な排便習慣を促進できます。

 

  1. c) 経口下剤

食事療法とライフスタイルの変更だけでは不十分な場合は、経口下剤が推奨される場合があります。下剤治療の基本は,腸に水を引き込むことで排便を促進する浸透圧性下剤(ポリエチレングリコールなど)を毎日適量内服となります。従来からよく使用されている刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)がありますが、長期間毎日内服すると、無理やり腸蠕動を亢進させることで大腸が疲弊して大腸が動かなくなる弛緩性便秘に移行することがあります。このため、刺激性下剤を長期間服用している患者の中には、下剤の効果を実感しづらくなる人がいます。ガイドライン上、刺激性下剤は最小限の使用にして、他の経口下剤で効果が乏しい時などに「頓服」で使用する方がよいという考えになってきています。その他に経口下剤は多数ありますが、上皮機能変容薬(アミティーザ®やリンゼス®)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス®)など、従来の経口下剤とは異なる作用機序を持つ薬剤も登場しています。これにより、患者ひとりひとりの状態に合わせた処方が可能になっています。

 

  1. d) 坐薬や浣腸

坐薬(炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム)は、炭酸ガスを発生させて腸を刺激することで排便を促します(他にも座薬はあります)。浣腸(グリセリン)は、直腸粘膜に直接作用します。また、グリセリンは便の滑りを良くしたり、便を柔らかくしたりして排泄を促します。これらの薬剤は、高齢者などの腸管の壁が脆弱な便秘の人に使用すると腸管穿孔を起こす場合があるので注意が必要です。

 

5)慢性腎臓病(CKD)の患者は便秘になりやすい?

慢性腎臓病(CKD)患者では、腸内環境の変化が顕著に見られ、便秘のリスクが高まることが知られています。CKD患者の腸内細菌叢は健常者とは大きく異なり、有害な代謝産物を産生しやすくなっています。これらの代謝産物は、腸管バリア機能の低下により体循環に移行し、慢性炎症を引き起こすことでCKDの進行や心血管疾患のリスクを高めると考えられています。

 

CKD患者が便秘になりやすい理由として、以下のような要因が挙げられます:

  1. 水分摂取量の不足:CKD患者は、腎機能低下に伴う尿量の減少や浮腫の予防のために水分制限を行うことが多いです。しかし、不十分な水分摂取は便秘を引き起こす主な原因の一つです。
  2. 食事の影響:CKD患者は、たんぱく質やカリウム、リンの摂取制限を行うことが多いです。これらの制限は、便量を減らし、便秘のリスクを高める可能性があります。
  3. 運動不足:CKD患者は、腎機能低下が進行してくると、疲労感や合併症を引き起こすことがあるため、運動量が減少傾向になります。身体活動の低下は、腸蠕動を弱め、便秘を引き起こす要因となります。また筋力低下により機能的に排便困難となります。
  4. 薬剤の副作用:CKD患者は、多くの薬剤を服用するため、これらの薬剤の中には、便秘を引き起こすものがあります。
  5. 自律神経障害:CKDの進行に伴い(特に糖尿病腎症の場合)、自律神経障害が生じることがあります。これにより、腸蠕動が低下し、便秘のリスクが高まります。

 

CKD患者における便秘は、患者のQOLを低下させるだけでなく、腸内環境の悪化を介してCKDや心血管疾患の進行にも影響を与える可能性があります。したがって、CKD患者の便秘管理は、包括的な治療戦略の一部として重要視されるべきです。

 

まとめ

便秘は一般的な消化器の問題でありますが、慢性便秘症を放置すると深刻な健康問題につながる可能性があります。食事内容の変更、ライフスタイルの変更、適切な下剤と坐薬の使用を行い、便秘の予防および管理をすることが大切です。

参考文献

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・日本消化器病学会関連研究会, 慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン2017.