カリウムが高いと言われたら
高カリウム血症
高カリウム血症とは?
カリウムは、体内の主要な電解質の一つであり、細胞内外の浸透圧の維持、酸塩基平衡の調節、神経や筋肉の興奮や収縮など、様々な生理機能に関与しています。正常の血清カリウム濃度は3.5〜5.0mEq/Lの範囲ですが、高カリウム血症ではこの上限を超えた状態をいいます。高カリウム血症は、しばしば無症状で経過することがありますが、重症化すると命に関わる危険性があります。そのため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。
高カリウム血症だと何がおきるの?
高カリウム血症は、主に心臓と神経系に影響を与えます。カリウムは細胞の興奮を制御する重要な因子であるため、血中濃度が上昇すると、心臓や神経の機能に異常をきたします。
軽度の高カリウム血症では、筋力低下、倦怠感、手足のしびれなどの非特異的な症状が現れることがあります。中等度になると、不整脈が起こり、動悸や失神を引き起こす可能性があります。
重症の高カリウム血症では、致死性の不整脈を引き起こし、突然の心停止に至ることがあります。また、高度の筋力低下により、呼吸筋が麻痺し、呼吸不全を来すこともあります。このように、高カリウム血症は命に関わる重大な病態であるため、早期の診断と治療が不可欠です。
原因
高カリウム血症の原因は、大きく分けて3つあります。
カリウムの排泄低下
腎臓は、体内のカリウムバランスを調節する主要な臓器です。腎不全、尿細管性アシドーシス、低アルドステロン症などの病態では、カリウムの尿中排泄が減少し、高カリウム血症を引き起こします。
カリウムの細胞外移動
細胞内に豊富に存在するカリウムが、何らかの原因で細胞外に移動すると、血中カリウム濃度が上昇します。アシドーシス、高血糖(インスリン欠乏)、薬剤(β遮断薬、ジキタリスなど)、運動などで起きます。
カリウムの負荷あるいは過剰摂取
横紋筋融解症、溶血や火傷などの内因性や輸血、K製剤の多い輸液などの外因性のカリウム負荷により血清カリウム濃度が上昇します。また、健康な腎臓を持つ人では、過剰なカリウム摂取による高カリウム血症は起こりにくいですが、腎機能が低下している患者では、カリウムサプリメントや高カリウム食品の摂取により高カリウム血症をきたすことがあります。
この他にも、降圧薬(ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤は高カリウム血症のリスクを高めることが知られています。
検査
高カリウム血症を診断は、血液検査による血清カリウム濃度の測定です。
ただし、溶血や採血手技の問題で、偽性高カリウム血症を示すことがあるため、注意が必要です。高カリウム血症の原因を調べるには、疾患によって異なりますが、血液検査・尿検査・問診(内服薬の確認など)を行います。
また、高カリウム血症が確認された場合、心電図検査を行い、不整脈や伝導障害の有無を評価します。高カリウム血症に特徴的な心電図変化として、テント状 T 波,PQ 間隔の延長,QRS 幅の増大などを認めます。血清カリウム濃度が著明に高いとP波の消失などが起こり心停止を引き起こすことがあります。
高カリウム血症時の血液検査や尿検査でわかること
腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR)
動脈血液ガス分析(アシドーシスの評価)
副腎機能検査(血漿レニン活性、血漿アルドステロン濃度)
尿検査(カリウム排泄量、尿細管性アシドーシスの評価など)
治療
高カリウム血症の治療は、原因や重症度に応じて、以下のような方法が選択されます。
軽症(血清カリウム濃度 5.5〜6.0 mEq/L)
カリウム制限食
原因薬剤の中止
カリウム吸着剤(ポリスチレンスルホン酸カルシウムなど)の内服
中等症(血清カリウム濃度 6.1〜7.0 mEq/L)
ブドウ糖-インスリン療法(カリウムの細胞内移動を促進)
重炭酸ナトリウム投与:アシドーシスがある場合
ループ利尿薬(フロセミドなど)の投与:カリウム排泄の促進
カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の投与:致死性不整脈の予防
重症(血清カリウム濃度 >7.0 mEq/L または心電図変化あり)
透析療法(血液透析)
上記の中等症に対する治療の併用
高カリウム血症にならないために気をつけること
高カリウム血症を予防するためには、以下のような点に気をつけることが大切です。
基礎疾患(腎臓病、副腎疾患など)をしっかりと管理する
医師の指示に従って、お薬を適切に使用する
定期的な血液検査を受け、血清カリウム濃度を確認する
高カリウム食品(干しぶどう、アボカド、ほうれん草、バナナなど)の摂取を控えめにする(*慢性腎臓病がある場合のみ)
血中カリウムをあげるサプリメントの使用を控える
高カリウム血症のリスクを高める病態を早期に発見し、適切に対処する
高カリウム血症は、重大な合併症を引き起こす可能性がある病態ですが、適切な予防と管理により、多くの場合コントロールすることができます。日頃から、自身の健康状態に注意を払い、異常を感じたら速やかに医療機関を受診することが大切です。
【参考文献】
・Palmer BF, et al. Physiology and Pathophysiology of Potassium Homeostasis: Core Curriculum 2019. Am J Kidney Dis. 2019; 74(5): 682-695.
・Montford, JR, et al. How dangerous is hyperkalemia?. J Am Soc Nephrol. 2017; 28(11):3155-3165.
・武藤重明ら. カリウム代謝の考え方. 日本腎臓学会誌 2008;50(2):84-90.