生活習慣病とは
生活習慣病は、その名のとおり生活習慣の偏りや乱れが深く関係している疾患の総称で、その要素としては食事、運動、休養、飲酒や喫煙などの嗜好品といったものを挙げることができます。
かつては成人病といわれてきましたが、若年者の発症も多いことから、上記のような生活習慣の関連が判明し、生活習慣病と名称が改められました。
代表的な疾患として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、がんなどが挙げられ、それに関連して動脈硬化、脳血管障害、虚血性心疾患などが問題となります。
生活習慣病は、今までの生活習慣の乱れの蓄積で発症しますので、重篤な事態をひきおこさないためにも、定期的に健診などで健康状態をチェックするとともに、普段から偏った生活を正していくことが重要です。
高血圧とは
高血圧とは、血圧が標準より高い状態が続いていることです。一般的な成人では医療機関で測った血圧が140/90mmHg以上ある状態が高血圧です。
自覚症状のないことが多いのですが、血管にダメージが与えられ続けることで、動脈硬化によるさまざまな疾患のリスクが高くなります。ただし、人によっては頭痛、めまい、耳鳴り、肩こりといった自覚症状があらわれる場合もあります。
血圧が高くなる原因は、遺伝的要因に生活習慣の要素、内分泌の異常、睡眠時無呼吸症候群などが複雑に関連しています。それらの関係を調べる血液検査、尿検査などを行い、原因を特定するとともに、普段から家庭でもご自身の血圧を計測してその変動状態を確認しておくことも大切です。
高血圧の原因
血圧は、心臓が血液を送り出す力、太い血管や末梢血管の柔軟性、血液の粘り気という要素で決まります。
血圧を上げる原因として遺伝的要素、生活習慣的要素、内分泌的要素などがあり、そのうち生活習慣からくるものとして、塩分を摂りすぎることとカリウムの不足といった食生活が大きな問題となっています。ナトリウムとカリウムは互いに拮抗して身体の水分のバランスを保っているためです。
その他では、運動不足による血管の柔軟性の不足、肥満による血液粘度の上昇、喫煙や過度の飲酒などによる健康被害、ストレスや疲労などの要因が血圧を上げるもととなっています。
現代日本では成人の3人に1人が高血圧といわれるほど、国民病として問題になっています。
高血圧の症状
高血圧は、自覚症状があまりあらわれないうちに進行して、血管を痛めつけ、重篤な循環器疾患などをおこすとことから「サイレントキラー」と呼ばれます。しかし血圧が高い状態がずっと続いた時には、人によってちょっとしたサインがあらわれることもあります。たとえば、頭痛、とくに寝起きにあらわれて午前中で治まるタイプのもの、息切れや動悸、耳鳴り、視覚がぼやけたりちらついたりする、肩こり、疲労感といったものがあります。
しかし、このような症状は高血圧ではない他の疾患でもあらわれることがありますので、定期的な健診による血圧のチェックを行うとともに、ご自宅に血圧計を用意して、朝と晩の定時に毎日計測してその推移を見守っていくことが大切です。
高血圧の診断
血圧の測定には診察室血圧と家庭血圧の2種類があります。診察室血圧とは、医療機関で計測する血圧のことで、1日のうち大きく変動する血圧の実態を正確に反映できない可能性もあります。また白衣高血圧といって、病院で測定する時のみ血圧が高くなる高血圧があり、この場合は治療対象にはなりません。
そこで、注目されているのが家庭で毎日血圧を計測して変動状態を見ていく家庭血圧です。
家庭血圧では上が135㎜Hg、下が85㎜Hgの数値で判断することになります。
また、とくに他の疾患がみられない本態性高血圧と、なんらかの疾患によって血圧が上がる二次性高血圧という分類もあります。二次性高血圧は腎機能、副腎などの異常、睡眠時無呼吸症候群、薬剤の副作用などが原因疾患です。
これらの結果を踏まえ、医師が必要とした場合、検査治療を行います。
高血圧の検査
まずは高血圧を起こしている原因疾患がないかどうか、血液検査や超音波検査などによって確認します。
その結果本態性であった場合、高血圧は生活習慣病として、身体のさまざまな臓器への影響が懸念されます。そのため、高血圧という確定診断となった場合、心臓への影響を診るための心電図検査(ECG)や心臓超音波検査(心エコー)のみでなく、動脈硬化の評価として頸動脈超音波検査、血圧脈波検査(ABI)や腎臓への影響がないか血液および尿検査を行います。
また、二次性高血圧の場合は、ホルモン異常ないか血液検査を行います。また、睡眠時無呼吸症候群の検査としアプノモニター(簡易睡眠時呼吸検知装置)検査を行います。
高血圧の治療
二次性高血圧の場合は、原因疾患の治療が第一となります。本態性の場合はまずは生活習慣の改善(食事療法および運動療法など)、それでコントロールができない場合は薬物治療を行っていきます。
生活習慣の改善
血圧を下げるためには、生活習慣の偏りや乱れを改善していくことが大切です。まずは薬に頼らず、以下のようなポイントで生活習慣を見なおし、血圧をコントロールしていきます。
減塩
塩分は身体に水分を滞らせるため、血圧を上昇させる要因となります。摂り過ぎに注意し、1日の目標量を6g以下にしましょう。
適度な運動
過度な運動は疲労を蓄積するため逆効果になることがあります。1日30分~1時間のウォーキングといった有酸素運動と、ゆったりとしたスクワットなどのレジスタンス運動を最低でも週3~5回の頻度で続けましょう。
バランスの良い食事
脂っこいもの、炭水化物などに偏らず、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル類、食物繊維をバランス良く食べましょう。
禁煙
ニコチンは血管を収縮させ、血管壁を硬くするため血圧が上がります。禁煙は必須です。
薬物を使用して禁煙を行う方法もありますので、その場合は禁煙外来を行っている提携医療機関に紹介させていただきます。
節酒
アルコールは適量であれば、血管を拡張しストレスをやわらげるなどの効果があります。
しかし過度の飲酒は逆効果となります。1日あたりビールであれば500mL缶1本、日本酒であれば1合が目安です。
但し、これらのお酒は糖分負荷になりますので、減量が必要な高血圧の方は、お酒は控えた方がよいです。
薬物治療
食事や運動など、生活習慣の見直しを行っても、思うように血圧がコントロールできない場合は、降圧薬などの薬物治療を検討します。降圧剤にもいろいろなタイプがあり、患者さんの状態にあわせて選択していきます。
ARB・ACE阻害薬
ARB・ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅡという血管を収縮させる働きのあるホルモンが作られることや働きを抑制し、血管を拡張させることで血圧を下げます。
またアンジオテンシンⅡは副腎に働きかけて、アルドステロンというナトリウムを体内に保持するはたらきのあるホルモンを増産しますが、これを抑制する働きもあります。
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬の主な作用は、血管平滑筋細胞のL型カルシウムチャネルを阻害し、細胞内へのカルシウムイオンの流入を減少させます。これにより、血管平滑筋が弛緩し、血管が拡張します。血管抵抗が低下することで血圧が下がります。
利尿薬
利尿剤には、チアジド系、ループ系、カリウム保持性利尿剤など、作用機序や作用部位がそれぞれ異なります。高血圧治療においては、チアジド系利尿剤が第一選択薬として広く使用されています。利尿剤は単剤でも他の降圧薬と併用でも効果的であり、特に高齢者や心不全、腎機能障害を合併する高血圧患者に有用とされています。利尿剤の作用の一つとして、腎臓の尿細管におけるナトリウムと水の再吸収を抑制します。これにより、尿中へのナトリウムと水の排泄が増加し、体内の水分量が減少します。その結果、循環血漿量が減少し、血圧が低下します。
β遮断薬
β遮断薬は心臓のβ1受容体を遮断します。これにより、カテコラミンによる心臓の刺激が抑制され、心拍数と心収縮力が低下します。その結果、心拍出量が減少し、血圧が低下します。また、心拍数と心収縮力の低下により、心筋の酸素需要を減らすため、狭心症や心筋梗塞後の患者にも有効です。また、心不全患者においても、β遮断薬は心機能を改善し、予後を改善することが知られています。
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
ネプリライシン阻害とアンジオテンシンII受容体拮抗の2つの作用機序を持つ薬剤です。新たな高血圧の治療薬であり、今までの薬よりも降圧作用が強いと言われています。ナトリウム利尿ペプチドの作用が増強され、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が抑制されることで、血管拡張、ナトリウムと水の排泄促進、心臓と腎臓の保護作用などが得られ、慢性心不全の治療にも有効とされています。
これらの薬から患者さんの状態に適切なタイプを選んで処方します。場合によってはこれらの薬を複数組み合わせて処方する場合もあります。
高血圧の治療の目標
高血圧の9割は残念ながら完治(治療を終了)することがないと考えられています。そのため治療の目標は、血圧を正常範囲にコントロールし続けることです。その努力目標としては
- 診察室血圧が130mmHg/80mmHg未満
- 家庭血圧が125mmHg/75mmHg未満
という数値が挙げられます。
この範囲内にコントロールできていれば良いのですが、コントロールが不十分だと動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞などの合併症のリスクが高くなってしまいます。また、年齢により治療目標が異なることがありますので、自己流での内服調整をせずに医師と相談し治療を行うことが必要です。
また、治療によって血圧が下がってきても、毎日しっかりと血圧を測定しながら、生活習慣をコントロールしていくことが大切です。
高血圧の予防
塩分摂取を控えめに
塩分は身体に水分を蓄える役割を果たします。人間にとって必要なものですが、摂取量が多すぎると水分が蓄えられすぎて血圧が上がってしまいます。
日本は塩分が多めの食生活が定着しています。たとえば、味付けの基本である味噌や醤油なども塩分の強い食品です。また箸休めの漬物も塩を効かせた保存食品です。さらに外食や市販のお惣菜なども塩分の多い濃い味付けのものが多くなっています。
市販の食品などは使用している塩分が表示されているものが多く、その表示に注目して、1日の塩分摂取量を6g以内に留めるように努力しましょう。
適度な有酸素運動を
運動をすると血管が拡張し、血行が改善されるため、血圧が下がります。適度な運動を習慣化することは大切です。
厚生労働省は「健康づくりのための身体活動基準」を策定していますが、その2023年版では、18歳以上の成人では1日60分以上の中強度の身体活動(歩行を8000歩以上)、65歳以上では1日40分以上(歩行を6000歩以上)行うことを推奨しています。中程度の運動にはウォーキングが相当し、ジョギングやスィミング、エアロビクスといった有酸素運動が含まれています。ただし、必要な運動量には個人差がありますので医師とよく相談して行うようにしましょう。
肥満対策を行う
肥満は脂質異常症や糖尿病を合併しやすく、血液の粘度が上がります。また増加した体重が負担となり心臓への負荷も増大し、血圧が上がりやすくなります。この肥満状態を見分けるための目安としてBMIという数値が使われます。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので厚生労働省の基準において25.0kg/m2以上を肥満としています。
高齢者の場合は、あまり低すぎてもフレイルのおそれもあります。また必要な摂取カロリーは個人によって大きく異なりますが、このBMI25.0未満を目標としてバランス良い食事を維持しながら体重をコントロールしていくことが大切です。当院では管理栄養士が常在していますので、食事のことでお困りの際は相談してください。
緊張やストレス
血管は収縮して血流のコントロールを行っています。この収縮は血管を構成する平滑筋が担っていますが、平滑筋は不随意筋で自律神経がコントロールしています。ストレスや緊張が高まると、身体活動を亢進させる交感神経が優位となり、血管が収縮して血流に負荷がかかることで血圧が上がることになります。また交感神経が優位になりすぎることで、生活の質が低下し、肥満や生活習慣病の発症リスクも高まります。
ストレスや緊張を解消するために、十分な睡眠、適度な運動、趣味などでの気分転換といった自分なりの方法を見つけて日々実行するようにしましょう。
適度な飲酒量をこころがける
飲酒は適量であれば、血管を拡張させ身体をリラックスさる効果や、食欲を活性化する働きがありますが、過度に摂取するとその後血管が収縮することや、また、肝臓でのナトリウム代謝を抑える働きもあり、結果として血圧が上昇してしまいます。厚生労働省はさまざまな研究をもとに「『節度ある適度な飲酒』としては、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する」という目標を定めています。純アルコールで20gといえば、ビールでいえば500mL、日本酒でいえば1合(180mL)程度となります。この数値を目安に適切な範囲内に留める努力をしましょう。
糖尿病とは
糖尿病とは、血中のブドウ糖量(血糖値)が基準より高い状態が続いている疾患です。
膵臓で血糖のコントロールに必要なインスリンが作られなくなってしまう状態(1型糖尿病)や、十分に働くことができなくなる状態(2型糖尿病)で、血中にブドウ糖が溢れてしまうのが原因で、血液の粘度が高くなってしまい、血管へのダメージによって多くの合併症を起こすリスクが高まります。
その他にも妊娠中に一時的に血糖値が上がる妊娠糖尿病などもありますが、日本人の糖尿病は9割以上が生活習慣病である2型糖尿病といわれています。食事制限や運動療法などで血糖値をコントロールし、それでもうまくコントロールできない場合、薬物療法を行います。
糖尿病の原因
糖尿病はインスリンが働けなくなって起こる病気です。インスリンが働けなくなる原因は2つに分けられます。1つにはインスリンが不足すること、もう1つはインスリンがうまく働かなくなることです。
インスリンが不足するタイプは1型糖尿病が代表です。インスリンを分泌している膵臓のβ細胞が壊されることによって起こります。
一方、インスリンがうまく働かなくなってしまうのが2型糖尿病と妊娠糖尿病です。インスリンは一方の手で細胞と結び付き、もう一方の手をブドウ糖に伸ばして、細胞のブドウ糖利用を助けます。この細胞との結び付きがうまく行かなくなることをインスリン抵抗性と言います。インスリン抵抗性は遺伝的要因に生活習慣が絡み合ってあらわれると考えられています。
インスリン抵抗性を高めてしまう生活習慣的要素には、過食、運動不足、脂っこい食べ物への偏りといった食習慣と、ストレスや喫煙などが関係していると考えられています。
なお、妊娠糖尿病は、胎盤の働きによって一時的にインスリンの働きが弱まることで起こりますが、その根本には糖尿病を起こしやすい遺伝的要因と生活習慣があると考えられており、2型糖尿病を起こしやすい体質であることが大きな要因となっていることが知られています。
糖尿病の症状
糖尿病には、糖尿病そのものの高血糖状態が起こす症状と、血管へのダメージによる合併症からくる症状の2つがあります。
糖尿病も初期の状態では、合併症がまだ起こっておらずあまり自覚症状を覚えることはありませんが、少し進行するとのどの渇き、多尿・頻尿、倦怠感・疲労感、視力障害、体重減少といった症状があらわれることがあります。
一方、高血糖によって血管に大きなダメージが与えられ、動脈硬化がおこると、脳血管障害、虚血性心疾患などのおそれがあり、その他にも網膜に集まった血管が破綻することで糖尿病網膜症、末梢神経が障害されることで起こる糖尿病神経障害、尿を濾過する腎臓の糸球体あたりに集まる血管の障害による糖尿病腎症という糖尿病の三大合併症などが代表的です。
糖尿病の診断・検査
一般的な健康診断では空腹時血糖値を測ります。
- 空腹時血糖値(10時間以上の絶食)の値が126mg/dL以上
- 随時血糖値(食事に関係なく計測)の値が200mg/dL以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(空腹時血糖値と75gのブドウ糖を摂取して一定時間ごとに血糖値を計測)の2時間後値が200mg/dL以上
の3つのどれかにあてはまると糖尿病型(糖尿病が疑わしい状態)と診断されます。その時、HbA1cを計測し、6.5%以上であるか、典型的な糖尿病の症状があらわれている場合、糖尿病の診断となります。
糖尿病の検査ではその他に尿検査も行うことがあり、尿検査で尿タンパク陽性の場合は合併症を疑います。妊娠中など患者さんの状態によっては他の検査を複合的に行うこともあります。
糖尿病の治療
糖尿病の治療は病態によって異なってきます。
「1型糖尿病」の治療
1型糖尿病では、外部からインスリンを補給するインスリン療法が基本になります。
インスリン療法はインスリンの自己注射で行います。投与量などは患者さんによって異なります。
投与法とともに診療時に丁寧に指導します。
「2型糖尿病」の治療
2型の場合は生活習慣の改善が第一です。それで効果が得られない場合は薬物療法となります。
食事療法
適正体重を維持するためバランス良く適量を食べ、その際できる限り糖質を減らし食物繊維を多めに摂取します。
運動療法
1日30分以上、最低でも週に3日以上適切な有酸素運動やレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける運動)を続けることが大切です。
薬物療法
生活習慣の改善で血糖値がコントロールできない場合、血糖値を下げるさまざまなタイプの薬から患者さんの状態に適切なものを選んで処方します。
糖尿病の予防
加齢や生活習慣によってどうしても血糖値は高くなり勝ちです。これを予防するためには、
- 食生活の改善
- 運動習慣をつける
- 適正体重を維持する
- 定期的な健康診断を受ける
の4点が重要です。
食生活の改善では、まず糖質(食物繊維以外の炭水化物)の摂取を控えめにしていくことが大切です。また、脂質を控え食物繊維の多い食品、良質なタンパク質を増やしていくのが良いでしょう。
なお、運動は、とにかく続けることが大切です。1日30分以上、週3回以上をめやすにウォーキングなどの有酸素運動、スクワットなどのレジスタンス運動を続けて行くことが目標です。それによって血糖を消費するため血糖値が下がり、インスリン抵抗性が軽減し、体重のコントロールも楽になります。
脂質異常症とは
脂肪は、コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)となって血中に含まれます。脂質は人体を維持するために必須のものですが、それぞれのバランスが大切でどれかが多すぎても少なすぎても問題になります。とくに問題になるのは血中脂質が多すぎる高脂血状態で、
- 細胞に脂質を届けるLDLコレステロールが多すぎる
- 余った脂質を回収し肝臓や筋肉に貯蔵する働きをするHDLコレステロールが少なすぎる
- 中性脂肪(トリグリセライド:TG)が多すぎる
といった要件が考えられます。
高脂質状態が続くと血管内のプラークが形成され、脳血管障害や冠動脈障害を起こしやすくなるのですが、高脂質状態だからといってほとんど自覚症状はありませんので、健康診断などで脂質の異常を指摘されたら、お早目に受診し治療にあたることをお勧めします。
脂質異常症の原因
脂質異常症は遺伝的体質に加えて、偏った食事や運動不足、睡眠不足、過度のアルコール摂取などの生活習慣が大きくかかわっています。動物性の脂肪の多い肉類や揚げ物など高脂肪食などを食べ続けることでLDLコレステロール値や中性脂肪(トリグリセライド)の増加に大きく影響を与えます。またアルコールを過剰に摂取すると肝臓での脂肪代謝に悪影響が出て、脂質異常を起こしやすくなります。
また、運動不足になると脂質を燃焼できず、身体に蓄積されるばかりになって、血中の脂質量も上昇してしまいます。
脂質異常症の症状
脂質異常症になってもまず自覚症状があらわれることはありません。定期健診などの血液検査で血中脂質の異常を指摘されて再検査になるなどで発覚することがほとんどです。
しかし、脂質異常症の原因によって黄色腫という皮膚や腱などに脂肪がたまってできる良性腫瘍や、角膜と結膜(黒目と白眼)の境目にできる乳白色・灰色を呈する輪があらわれることがまれにあります。
また、進行すると血管にコレステロールが溜まり粥腫(アテローム)とよばれる塊ができ成長してプラークと呼ばれるさらに大きな塊ができ、血管の破綻に繋がります。
脂質異常症の診断・検査
脂質異常症は採血検査で血中脂質を測ることで診断します。健診などでは総コレステロールと中性脂肪値を測ることが多いのですが、脂質異常の疑いがある場合には、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)の3つの値を測定することになります。
LDLコレステロール
LDLコレステロールは脂肪を細胞に届ける働きをします。多すぎる場合動脈硬化の大きな原因となります。そのため悪玉と呼ばれることもあります。
HDLコレステロール
HDLコレステロールは、細胞が利用しなかった余ったLDLコレステロールを回収し肝臓に運ぶ役割を果たすため善玉とよばれることもあります。この値が少なすぎる場合も脂質異常となります。
中性脂肪
中性脂肪は、細胞のエネルギーとして使われる脂肪で余ったものは皮下脂肪となって蓄えられます。この値が高いと肥満や動脈硬化の原因となります。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症はLDL、HDLコレステロールの数値と中性脂肪の数値で診断されます。
- LDLコレステロールが140mg/dL以上でありHDLコレステロ-ルが40mg/dL未満
- LDLコレステロールが単独で160mg/dL以上
- 中性脂肪が150mg/dL以上(中性脂肪は検査項目ではTGまたはトリグリセライドと表記されることが多くなっています)
※血中の中性脂肪濃度は、食事の影響を受けやすいので空腹時に血液検査を施行することが望ましいです。
脂質異常症の治療
脂質異常症と診断された場合、まずは食事療法・運動療法を行い、それでうまくコントロールできない場合は、薬物療法を追加します。
食事療法
野菜やきのこ類など食物繊維を中心に、バランス良く食べます。コレステロールの多い鶏卵や干し魚などを控え、また脂肪の多い肉類などを摂りすぎないようにしましょう。また、炒め物などに使用する油は、サラダ油ではなくオリーブ油などを使用するとよいです。
運動療法
運動療法としては、過度にならない程度の有酸素運動とレジスタンス運動を、最低でも週3回は行いましょう。とにかく続けることが大切です。
薬物療法
上記の食事や運動療法では思うように改善がみられない場合、患者さんの状態、どの数値が悪いかによって、さまざまな薬を使いわけて処方します。
LDLコレステロールが高い場合は、スタチン系薬剤やエゼチミブ、エボロクマブなど、中性脂肪を抑える場合はフィブラート系薬剤やEPA/DHA製剤などを使います。
脂質異常症の予防
脂質異常を起こさないためにまずは、以下のような工夫をしてみるとよいでしょう。
バランスの良い食事を心がける
脂肪はエネルギーや細胞を作るために必要なものですが、摂りすぎに注意しながら、バランスを考えた食事を摂りましょう。
- 肉や牛乳由来の脂肪分を控えて、魚介類や植物由来(オリーブオイルや亜麻仁油など)の脂肪分を増やす
- スナック菓子や揚げ物などは控えめにする
- 野菜、きのこ、海藻などの食物繊維を多く含む食品を多めに摂る
運動習慣をつける
最低週3回は1日30分以上運動をする習慣をつけましょう。有酸素運動では、ウォーキングやジョギングなど、筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動ではゆっくりとしたスクワットなどがお勧めです。
適度な体重を維持する
運動、食事の調整などで、適正体重を維持しましょう。BMIでいえば25.0未満に抑えることが目標です。
高尿酸血症とは
尿酸は、身体の細胞が新しく生まれ変わる過程で発生する老廃物の一種で、通常は一定量が体内に蓄えられた後、余分な分が尿として排泄されます。これを尿酸プールと呼びます。
しかし、何らかの理由でこの尿酸プールのバランスが崩れると、血液中に尿酸があふれ出し、やがて結晶化してしまいます。結晶化すると、関節などに溜まって時に激しい炎症を起こし、痛風発作となります。尿酸の血中濃度の正常範囲は7.0mg/dL以内とされています。
必ずしも痛風発作がおこるとは限りませんが尿酸値が高いままだと尿路結石の原因となるなど、さまざまな影響を身体に及ぼします。
高尿酸血症の原因
高尿酸血症には、
- 体内に溜まった尿酸を尿としてうまく排泄できない「尿酸排泄低下型」
- 体内で尿酸が作られすぎて排泄が間に合わない「尿酸産生過剰型」
の2つがあります。このうち日本では尿酸排泄低下型が多い傾向があります。
尿酸排泄低下型の原因としては、腎疾患などによる腎機能の低下やホルモンバランスの乱れ、脱水などが考えられます。
一方、尿酸産生過剰型の原因は、プリン体の多い食品の過剰摂取(アルコールの飲み過ぎも含む)、肥満、糖尿病、腎臓の病気、遺伝といったものが考えられます。
高尿酸血症の症状
尿酸値が高い状態が続いていても、それだけでは自覚症状があらわれることはありません。ただし、尿酸が尿酸カルシウムなどになって結晶化することで、痛風発作が起こることがあります。
痛風発作
痛風発作は尿酸がカルシウムと結びついて結晶化することで起こります。尿酸カルシウムは鋭利なトゲを八方にもつ結晶体となり、関節などに溜まることで、激しい炎症を起こします。このとき俗に「風が吹くだけでも痛い」といわれるほど強烈な痛みを感じます。発作はとくに足の親指の付け根に起こりやすいのですが、膝などで起こることもあります。
24時間程度で痛みのピークに達し、1週間~10日ほどでだんだん消えていくことが特徴です。
痛風発作の原因
血液中の尿酸が飽和状態になる(つまり血液中に溶けていられない状態になる)と、カルシウムと結びついて尿酸カルシウムの結晶となります。これが関節内に蓄積して炎症を起こすことが痛風発作の原因です。
高尿酸血症のその他の症状
高尿酸血症は、基本的に自覚症状が無いまま進行します。やがて起こる痛風発作は、10日ほどで治まりますが、放置すればその後も尿酸値が低下するわけではありません。
かえって慢性化してしまい、尿酸カルシウムが結晶化することで尿路結石を起こしたり、腎臓の機能が低下したり(痛風腎)、心機能の不全を起こしたり(痛風性心疾患)、脳血管障害を起こしたり(痛風性脳血管障害)するリスクが高まります。
高尿酸血症の診断
高尿酸血症は血中の尿酸濃度を測ることで行います。
尿酸は血中濃度が7.0mg/dLを超えると血中に溶けきれず結晶化しはじめます。この値以上の場合高尿酸血症です。
尿酸値の測定方法
血中の尿酸濃度を測るために、採血検査を行います。血液検査の項目では「尿酸(痛風)」などと表示されている項目です。
高尿酸血症の検査
採血検査の結果、高尿酸血症と判定された場合は、さまざまな検査によって尿酸値が上がっている原因をつきとめます。検査は
- 尿酸を尿として排泄する機能を調べるための腎機能検査
- 糖尿病による腎症やその他の影響がないか調べるための糖尿病検査
- 血圧に異常がないかを調べる血圧検査
- 尿中の尿酸排泄量を測定する尿検査
- 関節への尿酸カルシウムの沈着状態を調べるためのレントゲンなどの画像検査
- 尿路結石の有無を調べるためのCT検査や超音波検査
などを行います。
高尿酸血症の治療
高尿酸血症の治療の目標は尿酸値を基準内に保ち、痛風発作や尿路結石などの再発を防ぐことです。主に生活習慣の改善と薬物治療の両面から行います。
生活習慣の改善では、プリン体の多い食物の摂取を控えます。お酒類はよく言われるビールだけではなく酒類全般に尿酸値を高めるため、適量にとどめましょう。その上で水分を十分に摂取することが大切です。
それだけで、十分な効果が得られないようであれば、薬物療法を行うことになります。
薬物療法では、主に尿酸の産生を抑える系統の薬と、尿酸の排泄を促進する系統の薬の2系統から適切なものを選んで処方することになりますが、一般的には尿酸の産生を抑制する薬が使われます。
高尿酸血症の予防
尿酸値を標準に保つため、また高尿酸血症を予防するために行う生活習慣としては、以下のことに留意しましょう。
まずはバランスの良い食事とプリン体摂取の抑制です。プリン体はレバー類、鶏皮、イワシ、マグロ、カツオ、サバなど一部の魚介類、豆類、根菜類、きのこ類などに多く含まれる傾向がありますので、それらの摂取を控えましょう。
酒類は全般に尿酸を増やす傾向があります。ビールなら500mLに相当するなど適度な飲酒にとどめましょう。
また、水分は十分に摂取して尿量を増やすことで尿酸の排泄を促します。1日の水分量は1.5~2.0L程度を目標にしましょう。
肥満も尿酸値を上げる原因となります。BMI25.0未満を目指して適正体重維持を心がけましょう。
その上で、痛風発作や尿路結石などの合併をふせぐために定期的な検査を受けることが大切です。
メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームは、20世紀の終わりごろに世界保健機構が動脈硬化によって脳血管や冠状動脈に起こる生命にかかわるほどの重篤な合併症のリスクを高める複合的な要素に関して提唱した比較的新しい概念です。日本では内蔵脂肪の過剰と高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病などの要因を組み合わせてそのリスクを評価するものとして定義されています。
具体的には高血圧(130mmHg/85mmHg以上)、高脂血症(中性脂肪の高値、HDLコレステロールが150mg/dL以上、かつorまたはHDLコレステロール値が40mg/dL以下)、高血糖状態(空腹時血糖値が110mg/dL以上)の3つのうち2つと腹囲が基準以上(男性85cm以上、女性90cm以上)であることが日本においてはメタボリックシンドロームに該当します。